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レポート
2023年度
2023年8月31日-2024年3月1日 芝宮尚樹さんから派遣報告が届きました
2023年8月31日から2024年3月1日にかけて、フィリピン・マニラで若者気候アクティビズムにかんするフィールドワークを実施しました。感染症との関連では、2020年から2021年にかけてのコロナ禍が活動家に与えた影響を明らかにするための聞き取りを行いました。とくに「集まること」と「動くこと」という社会運動の中核をなす実践が厳しい移動制限によって制約されたことを、個々のアクティビストがどのように経験し、それに対応したのかを明らかにすることが事前の目的でした。
聞き取りの結果、(1)コロナ禍の当初、貧者を遺棄する政府のコロナ対策などに対する不満が若者たちの間に噴出し、それの受け皿として機能した既存の学生組織への新入者が著しく増大した、(2)けれども、仲間との対面での議論や、路上での示威行動といった形でエネルギーを発散できないために、少なからぬ若者が急速な燃え尽きを経験した、という一般的な傾向が分かりました。ただし、インタビューをしていた私が印象づけられたのは、こうした事実ではなく、むしろ、コロナについての語りを引き出そうとする促しに反して、インタビュイーたちの語りがしばしば、別の災害の経験や、人生の別のタイミングにおける経済的な困窮の話へするりとスライドしていってしまって、コロナという単一のトピックに話題を係留するのが難しかったことでした。ここから推測されるのは、コロナ禍を特別な出来事として捉え切り取ろうとする私の意図に反して、彼ら・彼女らにとっては、あくまで人生のなかで直面する数多くの困難の一つとしてそれは経験されたのであり、そのことをこそ彼ら・彼女らは伝えたかったという可能性です。この点をめぐって、若者気候アクティビスト一人ひとりの起伏に満ちたライフストーリー全体のなかにコロナ禍の経験を位置づける作業をこれから進めていきます。
なお、上述の聞き取りの他にも、2023年11月28〜29日にボホール島のHoly Name Universityで実施されたThe 2nd International Research Conference on Sustainable Environmentにて研究発表を行い現地の研究者と意見交換をしたり、フィリピンの大学出版が刊行したコロナ関連の書籍を収集したりして、フィリピンにおけるコロナ禍の経験にかんして多角的に知見を深めることもできました。
2024年2月27-29日 第3回領域総会を開催
2024年2月27日から29日にかけて那覇市ぶんかテンブス館会議室において第3回領域総会を開催しました。
本領域総会では、異なる分野を先行する3名の班員(濱田篤郎(東京医科大学)・奥田若菜(神田外語大学)・斉藤美加(琉球大学))による鼎談、オスロ大学のウェンゼル・ガイスラーとルース・プリンスによるキーノート、いきがい在宅クリニックの長野宏昭による新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの沖縄での対応についての講演を実施した他、森下翔(大阪大学)、宮崎千穂(静岡文化芸術大学)、堀口佐知子(明治学院大学)、小田なら(東京外国語大学)による個人発表を行いました。
同時に、計画研究班ごとに班会号を実施し、それぞれの研究の進捗状況について確認を行い、2024年度の活動について確認を行いました。また、総括班会合を実施し、領域全体の研究の進捗状況と今後の課題についても確認を行いました。部分的にやや遅延している活動もあるものの、全体としては順調に研究活動を進められていることを確認しました。(文責:浜田明範)
2023年12月23日-2024年2月21日 第1期ウェビナーシリーズを開催
本プロジェクトの研究成果を公開するために、2023年12月23日、2024年1月12日、2月21日に3回にわたって第1期ウェビナーシリーズを実施しました。
12月23日の第1回ウェビナーでは、千葉大学の髙橋絵里香が「パンデミックの天候‐世界:コロナ禍のフィンランドにおける大気=雰囲気の醸成と森への退却」というタイトルで発表しました。髙橋は、大気=雰囲気(アトモスフィア)というキーワードを用いながらフィンランドにおける新型コロナウイルス感染症への対応を描くことで、空気の操作不可能性と森への退却可能性という独特の想像のあり方を提示しました。
1月12日の第2回ウェビナーでは、長崎大学の加賀谷渉が「ケニア・ヴィクトリア湖周辺地域におけるマラリア伝播と対策」というタイトルで発表しました。加賀谷は、マラリアという感染症についての詳細な説明を行った後、ヴィクトリア湖畔周辺で現在進行中のマラリア対策プロジェクトの実態について報告しました。
2月21日の第3回ウェビナーでは、青山学院大学の飯島渉が「中国のCOVID-19対策をめぐって」というタイトルで発表しました。飯島は、中国における新型コロナウイルス感染症の「はじまり」から「おわりのはじまり」までを「社区」に注目しながら丁寧に後づけ、新型コロナウイルス感染症の同時代史の一端を描き出しました。
2024年2月4日「国際シンポジウムDecomposing Anthropocene: Exploring a Chemical Ethics Beyond Laboratoryを開催」
オスロ大学のウェンゼル・ガイスラー先生とルース・プリンス先生、それに東京大学新領域創成科学研究科の福永真弓先生を招いて、国際シンポジウムDecomposing Anthropocene: Exploring a Chemical Ethics Beyond Laboratoryを開催しました。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックで明るみになったことのひとつに、感染症への対応については病原体だけではなく、環境やそのなかにおける化学物質(ワクチンや薬剤)、またそれらについての認識も重要であるということがあります。このシンポジウムでは、ケニア、タンザニア、日本における環境中の目に見えない化学物質の存在と認識に注目することにより、人新世と感染症の関係に関する新たな見方を想像する可能性を検討しました。(文責:浜田明範)
2023年10月6日-8日 EAAA(East Asian Anthropological Association)にて学会発表
2023年10月6日-8日に香港中文大学でEAAA(East Asian Anthropological Association)の定期国際学会が開かれ、本科研から浜田、西、飯田、堀口、北川が参加してパネル発表を行いました。「Pandemics, Politics, Potentials」という大会テーマに沿って、パネルでは、冒頭に西が「感染症の人間学」プロジェクトについての説明を行い、その後に北川が日本の豚熱対策で特徴的な3つのレスポンスについて、西が新自由主義の日本におけるコロナ禍が自閉症者らの経験に与えた影響について、堀口・飯田がコロナ禍のプライマリケア医(かかりつけ医)が経験した時空間・モノとの関係にみられる特徴について、浜田がブリュノ・ラトゥールによる「テレストリアル」の視点から考察する日本のコロナ対策についての発表を行いました。質疑応答では、台湾等、東アジアの他地域での経験から改めて日本のパンデミックの経験や対策を問う形で活発に質問・議論がなされ、4つの発表全体に通じる重要なテーマを引き出すコメントもありました。 EAAAは中国大陸、香港、台湾、韓国、日本の五つの地域の人類学者の情報交換と交流を目的に2008年に始まった大会で、ハイブリッド開催だった今年は対面でも多くの若手研究者らが参加し、3日間を通して充実した意見交換をすることができました。パンデミック下の中国農村におけるコロナ患者に対するスティグマ、中国のソーシャルワーカーの「情動労働」と統治、フィリピンの反ワクチン運動、パンデミック下北京におけるサウンドスケープの記録等、「感染症の人間学」とも親和性が高く示唆的な研究発表も多く見られ、複数の若手研究者とつながりをつくることもできたため、本科研で今後開催予定の国際シンポジウム等においても引き続き交流をもつことが期待されます。総じて、大変有意義な3日間となりました。 (文責:北川真紀)
2023年10月1日 第2回領域総会を開催
2023年10月1日に東京大学駒場キャンパスにて第2回領域総会を実施しました。この領域総会では、前回の領域総会における議論を踏まえ、それぞれの班員の研究の内容を共有するために、総勢36名のすべての班員がポスターを作成し、4枠に分かれてポスター発表セッションを行いました。
本プロジェクトが始まってから半年という短期間にも関わらず、多くの班員が力の入ったポスターを作成して臨んだこともあり、会場の各所でポスターとを前に班員が集まって真剣に議論する姿を見ることができました。とても濃密な時間を過ごすことができたこともあり、終了する頃には、やや疲労感のある表情をしている班員も多くありました。今回の総会の成果を踏まえ、本プロジェクト内での相互理解と協働研究を発展させていくことが予感されました。(文責:浜田明範)
第1回領域総会を開催
2023年6月17日に東京大学駒場キャンパスにてキックオフイベントとして第1回領域総会を実施しました。領域総会では、まず、計画研究班毎に集まり班会合を実施することで、初めて顔を合わせるメンバー同士が、これまでの研究と「感染症の人間学」プロジェクトで実施する研究の計画についてお互いに共有しました。続く全体会合では、それぞれの研究班の班長から各班の研究計画の全体像と班員の研究計画の概要が全体に対して報告されました。
その後、外部助言者を交えて議論を行いました。そこでは、それぞれのメンバーが各々の研究を深化させることに加え、全体としてどのように交流を深め、ひとつの研究領域としてまとまりを作っていくことにより一層留意する必要性も提起されました。また、これに関連して異なる班の研究者の研究が現時点では見えづらいという声もありました。これらの点については、領域のまとまりを作り出すことを担う総括班から、この点に留意しながら今後の計画を修正していきたいという応答がありました。(文責:浜田明範)